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東京高等裁判所 昭和26年(行ナ)23号 判決

原告 平山修三

被告 特許庁長官

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

請求の趣旨

原告訴訟代理人は「昭和二十六年抗告審判第二七七号事件につき特許庁が昭和二十六年六月二十九日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め被告代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の陳述要旨は次の通りである。

請求の原因

(一)  原告はその考案にかゝる戸車用軌条につき昭和二十四年九月十日実用新案登録出願(昭和二十四年実用新案登録願第一四四〇三号)をした。その考案の要旨は帯金の中央を半円形に彎曲した弧状上面部の両側面部の両下緑を夫々内方に折曲げて布設緑を作り、これにより軌条の中心部を空洞とすると共に布設面の中央部を空条とした戸車用軌条の構造にある然るに右出願に対し昭和二十六年三月十日出願拒絶の査定があつたので、原告は同年四月十四日抗告審判の請求をしたところ(昭和二十六年抗告審判第二七七号)同年六月二十九日請求人の申立は成立たない旨の審決あり、この審決は同年七月十三日原告に送達せられた。

(二)  抗告審判の審決理由によれば「原査定に引用した大正十四年実用新案出願公告第七八五六号公報には本件考案のものに比し敷設緑に適当間隔毎に特に切目を付して直立せる爪を設けた点において本件考案のものと異る戸車用軌条の考案について説明記載せられている」と説明し、右引用公報記載の考案と本件考案との相違を認めているが更に「引用公報記載の考案は考案の過程として本件考案と同一のものを基礎としこれに改良を加えんとして考案したもの」であると認め、この二つの認定を前提として該審決は引用公報記載の考案者は当然本件考案を公然認知したものであり、且本件考案は右引用公報に容易に実施するを得べき程度において記載せられていると認めることができる。従つて本件考案は実用新案法第三条第二号に該当し新規でないと判断したのである。

(三)  然しながら凡そ考案にかゝる物品の型が他のものと同一又は類似するか否かを判定するにはその作用効果を対比して観察の標準とすべきであつて、この見地から原告の本件考案と前記審決に引用せられた公報記載のものとの作用効果を比較すれば、

(イ)  後者は工作が煩雑で価格は前者に比して高くつく。

(ロ)  後者は爪を敷居に打込む手間を要し前者に比し効果が遙に劣る。

(ハ)  後者は爪の打込により頂部に多少の窪みを生ずるを免れず、その結果「レール」自体が折曲し易くなり且つ戸車の軋み並に軋音を生ずる惧が多いが前者にはこの欠点がない。

(ニ)  後者の爪の打込まれた敷居面の穴は使用後次第に拡大して爪の作用効果は漸次消失し、結局は断片的の座片だけの作用となり前者の一貫布設緑に比し耐重耐抗の作用効果が遙に劣る。

(ホ)  後者の爪は折曲し易いから使用当初からでもその抗力と断片座片の抗力とを合するも前者の一貫布設緑の抗力に劣る。

(ヘ)  後者は使用当初爪の打込穴が未だ拡大しない間は「レール」両側部の弾性が著しく減殺され為めに戸車の軋りが激しいが前者では両側部の弾性が普遍的に作用しこのような欠点がない。

(ト)  後者では座片が処々で中断されているからその間隙部で軌条が就れか一方の外側に屈曲する虞があるが前者では布設緑が一貫的に連続し戸車の溝に嵌つているから布設緑が外側方に開張する虞はない。要するに審決が引用する公報掲記の考案は理想上の構想で、実用的効果は劣り、これに対し本件考案は実際上適切の構造で実用的の作用効果は優秀である。加之両者が構造上相違することは原審決も認めるところである。然るに原審決は型のみに着眼して作用効果の特異性を看過し本件考案の新規性を否定したのは不当である。

被告の答弁

(四)  原告陳述の請求原因(一)の事実は認める。

(五)  審決は大正十四年実用新案出願公告第七八五六号公報を引用し該公報に掲載せられた「レール」は本件考案のものに比し敷設緑に適当間隔毎に特に切目を附して直立せる爪を設けた点において本件考案のものと構造上差異を有する考案(以下A考案という)が記載せられているが、同時にその説明中には本件考案と同一の考案(以下B考案という)が容易に実施することを得べき程度において記載せられているものと認めてこの後者と対象として本件考案の新規性を否定したのである。而してかくの如く解せられる根拠として原審決は特許第二七〇六〇号明細書、登録用新案第四四一二四号公報及び同第五八四五八号公報を挙げて、普通の当業者ならば此等の公報に記載せられているような従来公知の技術を当然知得していると認むべきであり、かゝる技術を知得しているならば前記大正十四年実用新案出願公告第七八五六号公報記載の考案(A考案)が考案の過程として本件考案と同一のもの(B考案)を基礎としたことを容易に認定し得ると説明したのである。原審に何等不当の点はない。

違を認めているが更に「引用公報記載の考案は考案の過程として本件考案と同一のものを基礎としこれに改良を加えんとして考案したもの」であると認め、この二つの認定を前提として該審決は引用公報記載の考案者は当然本件考案を公然認知したものであり、且本件考案は右引用公報に容易に実施するを得べき程度において記載せられていると認めることができる。従つて本件考案は実用新案法第三条第二号に該当し新規でないと判断したのである。

(三) 然しながら凡そ考案にかゝる物品の型が他のものと同一又は類似するか否かを判定するにはその作用効果を対比して観察の標準とすべきであつて、この見地から原告の本件考案と前記審決に引用せられた公報記載のものとの作用効果を比較すれば、

(イ)  後者は工作が煩雑で価格は前者に比して高くつく。

(ロ)  後者は爪を敷居に打込む手間を要し前者に比し効果が遙に劣る。

(ハ)  後者は爪の打込により頂部に多少の窪みを生ずるを免れず、その結果「レール」自体が折曲し易くなり且つ戸車の軋み並に軋音を生ずる惧が多いが前者にはこの欠点がない。

(ニ)  後者の爪の打込まれた敷居面の穴は使用後次第に拡大して爪の作用効果は漸次消失し、結局は断片的の座片だけの作用となり前者の一貫布設緑に比し耐重耐抗の作用効果が遙に劣る。

(ホ)  後者の爪は折曲し易いから使用当初からでもその抗力と断片座片の抗力とを合するも前者の一貫布設緑の抗力に劣る。

(ヘ)  後者は使用当初爪の打込穴が未だ拡大しない間は「レール」両側部の弾性が著しく減殺され為めに戸車の軋りが激しいが前者では両側部の弾性が普遍的に作用しこのような欠点がない。

(ト)  後者では座片が処々で中断されているからその間隙部で軌条が就れか一方の外側に屈曲する虞があるが前者では布設緑が一貫的に連続し戸車の溝に嵌つているから布設緑が外側方に開張する虞はない。要するに審決が引用する公報掲記の考案は理想上の構想で、実用的効果は劣り、これに対し本件考案は実際上適切の構造で実用的の作用効果は優秀である。加之両者が構造上相違することは原審決も認めるところである。然るに原審決は型のみに着眼して作用効果の特異性を看過し本件考案の新規性を否定したのは不当である。

被告の答弁

(四)  原告陳述の請求原因(一)の事実は認める。

(五)  審決は大正十四年実用新案出願公告第七八五六号公報を引用し該公報に掲載せられた「レール」は本件考案のものに比し敷設緑に適当間隔毎に特に切目を附して直立せる爪を設けた点において本件考案のものと構造上差異を有する考案(以下A考案という)が記載せられているが、同時にその説明中には本件考案と同一の考案(以下B考案という)が容易に実施することを得べき程度において記載せられているものと認めてこの後者と対象として本件考案の新規性を否定したのである。而してかくの如く解せられる根拠として原審決は特許第二七〇六〇号明細書、登録用新案第四四一二四号公報及び同第五八四五八号公報を挙げて、普通の当業者ならば此等の公報に記載せられているような従来公知の技術を当然知得していると認むべきであり、かゝる技術を知得しているならば前記大正十四年実用新案出願公告第七八五六号公報記載の考案(A考案)が考案の過程として本件考案と同一のもの(B考案)を基礎としたことを容易に認定し得ると説明したのである。原審に何等不当の点はない。

原告の主張

(六)  被告の(五)の主張に対し大正十四年実用新案出願公告第七八五六号公報にA考案の外B考案も記載せられているとは一般には勿論当業者と雖も到底判読することはできない。

又原審決は右公報以外に前記(五)に記載せられた三種の公報を引用して本件考案の新規性を否定する根拠としているが、果して然らば実用新案法第二十六条特許法第百十三条第一項及び同法第七十二条の規定によつて右三種の公報に係る如上の理由を抗告審判の終結通知前に原告に示すべきであつたのに拘らず、この手続をなさずして審決をしたのは違法である。又考案の新規性を判断するのに種々の刊行物を寄木細工式に引用して構成したものとの比較をすることは不当である。加之引用せられた此等の公報掲載の考案と本件考案とを比較すれば決して同一でない。(立証省略)

三、理  由

事実摘示(一)項記載の事実は当事者間に争がない。

原告考案の要旨は帯金の中央部を半円形に彎曲した弧状上面部の両側部の両下緑を夫々内方に折曲げて布設緑を作り、これにより軌条の中心部を空洞とすると共に布設面の中央部を空条とした戸車用軌条の構造にある。而して成立に争のない乙第一号証によれば審決の引用する大正十四年実用新案出願公告第七八五六号(同年二月二十六日公告)に記載公告せられた「レール」は戸障子受に使用する「レール」で薄鉄板を半円形に彎曲しその両端に適当の間隔を置いて切目を附して直立せる爪を残存し、他の部分を内方に折曲げて座片を設け半円形の頂部は釘孔を穿ちて成る構造を有し、この「レール」を敷居に釘着すれば爪が敷居に打込まれ座片にのつて安着するから在来のものの如く戸障子の重量の為めに半円形が両側に開張し或は敷居面に喰込んで「レール」面に高低を生ずるが如き虞なく極めて堅牢であることの効果を有する考案であることが説明せられて居る。この公告の記載中には本来よりこの種の軌条として帯状薄鉄板の中央を半円形に彎曲して両側に垂直部を設けた中空軌条のあつたことが記載せられ、この在来の構造の軌条に爪と座片を附加し、爪によつて半円形部が荷重の為め外部に開張することを防ぎ、座片にのつて下端緑が敷居面に喰込むことを防ぎ、以て軌条の安着を企図した趣旨が明瞭である。従つてこの引用公告の記載中には帯状薄鉄板をその中央で半円形に彎曲した弧状上面部の両側に垂直部を設けその敷居に接着する布設緑として、両垂直部の緑を夫々内方に折曲げて座片とし、布設緑の中央部を空条とし軌条の内部は空洞とした構造、即ち原告の本件考案と同一の軌条の構造が当業者の容易に実施することを得べき程度において記載せられて居るものと認めざるを得ない。然らば原告の本件考案は実用新案法第三条第二号に該当し新規性を欠くものと謂はなければならない。

右の判示は本件考案が大正十四年既に前記実用新案出願公告中に容易に実施することを謂べき程度に記載せられているとするので原告の考案が右公告掲載に係るところの前記の爪と座片とを持つ「レール」そのもの(A考案)と同一構造であると判断したのではないから、右のA考案と原告の本件考案の軌条との差異を云々する原告の主張(前記(三)項)は的をはづれた論議であると謂はなければならない。

本件記録によれば原告の本件考案が拒絶査定を受けた理由は前示大正十四年の公告に容易に実施することを謂べき程度に記載せられてあるからと謂うにあり、又抗告審判も亦同一の理由により原告の抗告を排斥したものである。尤も抗告審判の審決では前記(五)項記載の如き他の刊行物をも引用してあるがその趣旨は原告の考案が此等の刊行物中に容易に実施することを謂べき程度において記載せられたものと同一であるとか或はこれ等の考案を寄せ集めたものと類似であると云うことを以て原告の請求を拒絶すべきものとした趣旨ではなく、これ等の刊行物により公知せられた技術的知識を以てすれば、前記大正十四年の公告に掲載せられた考案の前提的基礎として原告の本件考案と同一のものも記載せられていることを容易に理解し得る筈であると説明した趣旨に過ぎない。即ち審決は拒絶査定と異る理由を附加したものではないから前記大正十四年の公告以外の刊行物を挙げて原告に対し出願拒絶の理由を示すべき場合に当らない。よつて(六)項記載の原告の主張も理由がない。

結局審決は相当で原告の本訴請求は理由がないから民事訴訟法第八十九条に則り主文の通り判決する。

(裁判官 小堀保 角村克己 原増司)

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